Dolcissima Mia Vita

A Thing of Beauty is a Joy Forever

2019-01-01から1年間の記事一覧

ラシーヌ「アンドロマック」覚書

絶望的な片思いの連鎖。 オレストはエルミオーヌを、エルミオーヌはピリュスを、ピリュスはアンドロマックを、そしてアンドロマックは亡き夫エクトールを愛している。 そのなかでぶれるのがエルミオーヌとピリュス、ぶれないのがオレストとアンドロマックで…

バーチャルなものとリアルなもの

ヨハネによる福音書の第20章、復活したイエスをまだ見ていない弟子トマスが他の弟子たちに「私はその手に釘の痕を見、指を釘の痕に入れ、手をその脇に入れるまで信じない」と言う場面がある。 Doubting Thomas という成語も生まれたこの逸話で、トマスは昔か…

ジェシー・ノーマン追悼

いちどだけ生で聴いたことがありました。昭和女子大学の人見記念講堂で、予定されていたのはシェーンベルクの「期待」だったのが変更されて、一般的な歌曲のプログラムになったのでした。 どんな曲を歌ったか、もうすっかり忘れてしまったけれど、アンコール…

エシカル・ツーリズム

とある読書会での課題図書、ようやく図書館の順番が回ってきて、アレックス・カー/清野由美『観光亡国論』(中公新書ラクレ)読みました。 読みながら考えたのは観光の足としての飛行機のことです。地球温暖化を少しでも憂える人ならば、ただ楽しみだけのた…

ウィーンモダン展を見てきました

芸術の秋というには少し暑い一日 久しぶり街に出て展覧会「ウィーンモダン展」に行ってきました 18世紀のマリア・テレジアから20世紀の表現主義までのウィーンの街の歴史を絵画と風俗とともにたどる企画 シューベルトの眼鏡 メッテルニヒのカバン クリムトの…

雨の歌

雨の歌 雨うけに雨おつるおとたえまなくものをおもへどあふすべのなき 雲となり雨となりても逢ふことのかなはぬ恋とさとりぬるかな あすの米あらふくりやの小夜ふけてさくらをちらす雨ふりやまず たましひのくらがり峠けふも雨妥協といふことつゆしらぬまに …

ジャン・デルヴィル「母親たち」

ジャン・デルヴィル Jean Delville (1867-1953) の名を知ったのは学生のころ、東京で見たベルギー象徴派の展覧会で、フェルナン・クノップフやフェリシアン・ロップスなどとともに、その幻想的で怪異な作風を印象づけられました。 フランスのギュスターヴ・…

一つの言語を話す人間

小学校から英語を教えるプログラムに反対する人の多くが挙げる理由のひとつに 「まず日本語をしっかり教えるべきだ。日本語の土台が固まらないうちに外国語を学んでも身につかない」 というのがあります。 本当にそうでしょうか。 イバン・イリイチはデイヴ…

好きと嫌いの外国語

フェイスブックのいいね!は英語では Like フランス語では J'aime ですが、ほかの言葉ではどうなのか少し調べてみました。 スペイン語は Me gusta イタリア語では Mi piace ドイツ語では Mir gefällt 現代ギリシャ語では Μου αρέσει ロシア語では нравится …

パトス四重奏団を聴きに

きのうは主夫のお休みをもらって、近所の公民館に音楽会に行ってきました。 パトス四重奏団。ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・ピアノのグループです。 固定メンバーでのピアノ四重奏団はめずらしいですね。 1月に結成されてこの日が初舞台とのことでしたが…

小さき額

小さき額 十二首 病める子にたべさせんとてやはらかくやはらかくうどんうすあじに煮る あづけたる園の電話に馳せゆけば小さき額に熱さましはる いつになくことばすくなの病める子をうしろにのせて重き自転車 病める子のつぶらまなこに甘ゆれば添ひ寝せんとて…

ある日スザンナは

オルランド・ディ・ラッソ Orlando di Lasso「ある日スザンナは」Susanne un jour を聴いていました 歌詞はギヨーム・ゲルー Guillaume Guéroult という人によるもので Susanne un jour d'amour solicitéepar deux viellardz, convoitans sa beauté,fut en s…

あかねいろの空

あれから34年ですね 墜落のときにあはせてそらをみるきみの最期に見しそらのいろ 御巣鷹忌墜ちし時刻にみるそらのあかね色てふかなしみのいろ かぞふればみそとせあまりよとせ経ぬあの夏の日の墜落の惨 御巣鷹にきみみまかりしその日より夏の夜ばかりうきも…

カミュ『異邦人』再読

カミュ『異邦人』再読。再読のたびに発見のある小説である。窪田啓作の訳に誤りがあるのでまず指摘しておきたい。物語の終わり近く、ムルソーと司祭の会話そのとき、私のほうを振り向きながら、不意に彼は大声で、あふれるようにしゃべりたてた。「いいや、…

みなべのうみ

みなべのうみ 十二首 あめつちにあまねくひかり満つるあさ春告げ鳥の初音はつかに 鳥かげのよぎるつかのま見しひとのおもかげゆゑにながくなげきつ をとめごは横笛ふけりあづさゆみ春をよろこぶ小鳥のごとく 伐採をまつ森の樹にけさもまた鳥の来鳴きてわかば…

弦楽四重奏によるクロイツェル・ソナタ

高校生のころ初めてクロイツェル・ソナタを聴いたのはLPレコードで、たしかアルチュール・グリュミオーの演奏でした。 1楽章、2楽章と一所懸命に聴いて、特に2楽章の内容が濃くて、ああすてきな曲だなあと、すっかりおなかいっぱいになっていました。 ところ…

人はみなキマイラを

人はなぜ子どもに夢を語らせたがるのだろう なぜおとなは「将来なにになりたいか」を子どもにたずねることを好むのだろうか。なにものかになってほしい、なにものでもないものにはなってほしくない、名づけうるなにものかになれ、そういう呪縛を子どもに課す…

愛染坂

「愛染坂」十二首 夏の季節のために 鼻緒よりペディキュアの爪ひからせて祭り太鼓にいそぐをとめご 姿見にすがたうつしてなつゆかたくるりまはれば花咲くごとく 子のためにアイロンあつる夏ゆかたせみの声降るまつりのあさに をさなごのたべのこしたるわたあ…

ギュスターヴ・モローの展覧会

パリで一番好きな場所はときかれたらギュスターヴ・モロー美術館と即答するほどに偏愛する画家 ギュスターヴ・モローの展覧会が大阪で開幕したので行ってきました 母ポーリーヌや恋人アレクサンドリーヌをおだやかなやさしい筆致で描いた肖像画は初めて見ま…

日本のレジスタンス俳句

フランス出身で日本語で俳句を作るマブソン青眼 (Seegan Mabesoone) が1929年から1945年までのレジスタンス俳句を撰び、フランス語訳をつけ、日仏両方で序文を書いた本『日本レジスタンス俳句撰』(PIPPA Editions, 2017)を読む。 収録されている俳人は知ら…

ブラームスのコラール前奏曲

AppleMusicでピエール・モントゥーの古い録音を聴いていたら、ブラームスの11のコラール前奏曲(作品122)の管弦楽編曲版があった。 原曲はオルガン独奏用なのを管弦楽用に色彩的なオーケストレーションをしている。シェーンベルクのバッハの編曲とちょっと…

江ノ電の駅

連作「江ノ電の駅」十二首 海を主題に 由比ヶ浜に夕さりくれば波のおとたかくきこえて潮みちくらし 肺腑まで海のにほひにそまりけり夏のひかりの江ノ電の駅 さねさし相模のうみの大波にさらはれしわがさんだるいづこ 材木座海岸の夏はてにけり空まふ鳶の声の…

鈴木るみこさんのこと

「庭は地上で見られる唯一の夢。失った何かを取り戻すために、人はそれをつくらずにはいられない」(鈴木るみこ 『クウネル』2014年9月) 仏文科の同級生の訃報を 死後1年以上経って知る雑誌社に就職と聞いたきりだったのですが 編集者として文筆家として多く…

中原中也「一つのメルヘン」を読んで

このような詩です 秋の夜は、はるかの彼方に、小石ばかりの、河原があって、それに陽は、さらさらとさらさらと射しているのでありました。 陽といっても、まるで硅石か何かのようで、非常な個体の粉末のようで、さればこそ、さらさらとかすかな音を立てても…

遠景の少年

短歌連作「遠景の少年」十二首 髪二尺ばさりときつて少年とみまがふきみにあふ新学期 放課後の渡り廊下のトロンボーン木星といふ快楽の神 プール掃除のいつかあそびとなりし子らしぶきあがりてわらひさざめき 変声をむかへぬままに生涯ををへにし君の通夜の…

フランス語で俳句を読む

ロジェ・ミュニエ Roger Munier という人がフランス語に訳した俳句のアンソロジーを読んだ。序文によると英訳からの重訳とのこと。芭蕉・蕪村・一茶をはじめとする江戸期の俳人にまじって子規や虚子もとられている。 蕪村の「月天心貧しき町を通りけり」でイ…

私に触れるな

佐藤研『悲劇と福音』読了。 供えた花が萎れれば取り替えるようにして、月日の流れに逆らって悲しみを常に更新して生々しいままに忘れないことこそ、あすへ踏み出すためのよすがとなる。イエスの逮捕に逃げ出した罪責感と師を喪った悲しみのなかで成立したマ…

イスファハンの薔薇

短歌連作「イスファハンの薔薇」十二首 ガブリエル・フォーレの同名の歌によせて 咲くためのちからたくはへ冬薔薇はかたくつぼみをとぢてねむれる あづさゆみ春まつ庭の薔薇の芽のほのかにあかくいろづきにけり しろたへの薔薇一輪のさきそめぬあめはれてけ…

マルケヴィッチのチャイコフスキー

きのうの晩NHKFMでイーゴリ・マルケヴィッチの振るN響のチャイコフスキーの6番のライブ録音の放送を聴いていました 1983年 N響との唯一の共演 その二ヶ月後にマルケヴィッチ死去とのことで 最晩年の演奏にもかかわらず 白熱の緊張感に心を奪われました 第…

トマトとズッキーニと紅鮭のスパゲッティ

枚方・香里ヶ丘は梅雨の晴れ間の強い日差しです 夏野菜がいろいろ入荷しました カフェのランチ 今週のパスタは トマトとズッキーニと紅鮭のスパゲッティです トマトの酸味を生かしてさわやかにしあげました あかちゃん連れの若いお母さま方5人様がランチにお…