Dolcissima Mia Vita

A Thing of Beauty is a Joy Forever

バッハ・コレギウム・ジャパンの『ジュリオ・チェーザレ』

ほとんど予備知識のないままに、初めて見に行ったバロックオペラ、ヘンデルの『ジュリオ・チェーザレ』を楽しんできました。
ステージ上の楽団を取り囲むようにして歌手が演じて歌う、セミステージ形式です。
開幕早々、チェーザレの第一声に驚き。カウンターテナーだったんですね。
敵役のエジプト国王トロメーオ(プトレマイオス)と、クレオパトラの召使もカウンターテナーでした。
英雄たちは男性的な低くて太い声のはず、というのも、今の時代の人間の思い込みなのかもしれない。
鈴木優人指揮のバッハ・コレギウム・ジャパンは初めて聴きます。小編成のピリオド楽器の小気味よい切れ味のすてきな演奏でした。
チェンバロが3台、テオルボも奏者が2人で大小何台かを持ち替えという具合に、通奏低音が充実しています。テオルボという巨大なギターのような楽器の、乾いているのにズシンと低く響く、ちょっと琵琶に似た響きが大好き。
クレオパトラ役の森麻季を生で聴くのも初めてです。うっとりと聴き惚れてしまう声はもちろん、歩き方から手足の動きの一つ一つまで、オーラというか色気というか、そういうものを感じました。
ヘンデルの音楽は何か金太郎飴みたいといったらあれですが、どの曲も似たりよったりという印象をもっていたけれど、よく聴けば工夫され変化に富んだ曲想で、フラウト・トラヴェルソやホルンやヴァイオリンのソロも印象的です(皆さんすばらしい技巧)。鳥のさえずりを模したヴァイオリンは、ヴィヴァルディの春みたいでした。なかでも、めでたしめでたしの大団円でのチェーザレクレオパトラの二重唱から終曲の合唱の盛り上がりは、聴き応えがありました。
それでもやはり、ときどき退屈に感じてしまうのは、ABAのダ・カーポ形式のアリアがこれでもかというくらい続くことで、後半の反復の部分は、もうわかったからと〈早送り〉したくなってしまうのも、せわしない現代人の聴き方なのでしょうか。アリアがひとつ終わるごとに盛大な拍手で演奏が中断されるのも興ざめで、早くドラマを先に進めてほしいのに、と思ってしまいます。
7月に同じ兵庫県立芸術文化センターで聴いた『ドン・ジョヴァンニ』の初演が1788年、きょうの『ジュリオ・チェーザレ』は1724年。わずか60年のあいだに、同じオペラの範疇とは思えないほど、まったく違う様式なのに驚かされます。