Dolcissima Mia Vita

A Thing of Beauty is a Joy Forever

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

みなべのうみ

みなべのうみ 十二首 あめつちにあまねくひかり満つるあさ春告げ鳥の初音はつかに 鳥かげのよぎるつかのま見しひとのおもかげゆゑにながくなげきつ をとめごは横笛ふけりあづさゆみ春をよろこぶ小鳥のごとく 伐採をまつ森の樹にけさもまた鳥の来鳴きてわかば…

弦楽四重奏によるクロイツェル・ソナタ

高校生のころ初めてクロイツェル・ソナタを聴いたのはLPレコードで、たしかアルチュール・グリュミオーの演奏でした。 1楽章、2楽章と一所懸命に聴いて、特に2楽章の内容が濃くて、ああすてきな曲だなあと、すっかりおなかいっぱいになっていました。 ところ…

人はみなキマイラを

人はなぜ子どもに夢を語らせたがるのだろう なぜおとなは「将来なにになりたいか」を子どもにたずねることを好むのだろうか。なにものかになってほしい、なにものでもないものにはなってほしくない、名づけうるなにものかになれ、そういう呪縛を子どもに課す…

愛染坂

「愛染坂」十二首 夏の季節のために 鼻緒よりペディキュアの爪ひからせて祭り太鼓にいそぐをとめご 姿見にすがたうつしてなつゆかたくるりまはれば花咲くごとく 子のためにアイロンあつる夏ゆかたせみの声降るまつりのあさに をさなごのたべのこしたるわたあ…

ギュスターヴ・モローの展覧会

パリで一番好きな場所はときかれたらギュスターヴ・モロー美術館と即答するほどに偏愛する画家 ギュスターヴ・モローの展覧会が大阪で開幕したので行ってきました 母ポーリーヌや恋人アレクサンドリーヌをおだやかなやさしい筆致で描いた肖像画は初めて見ま…

日本のレジスタンス俳句

フランス出身で日本語で俳句を作るマブソン青眼 (Seegan Mabesoone) が1929年から1945年までのレジスタンス俳句を撰び、フランス語訳をつけ、日仏両方で序文を書いた本『日本レジスタンス俳句撰』(PIPPA Editions, 2017)を読む。 収録されている俳人は知ら…

ブラームスのコラール前奏曲

AppleMusicでピエール・モントゥーの古い録音を聴いていたら、ブラームスの11のコラール前奏曲(作品122)の管弦楽編曲版があった。 原曲はオルガン独奏用なのを管弦楽用に色彩的なオーケストレーションをしている。シェーンベルクのバッハの編曲とちょっと…

江ノ電の駅

連作「江ノ電の駅」十二首 海を主題に 由比ヶ浜に夕さりくれば波のおとたかくきこえて潮みちくらし 肺腑まで海のにほひにそまりけり夏のひかりの江ノ電の駅 さねさし相模のうみの大波にさらはれしわがさんだるいづこ 材木座海岸の夏はてにけり空まふ鳶の声の…

鈴木るみこさんのこと

「庭は地上で見られる唯一の夢。失った何かを取り戻すために、人はそれをつくらずにはいられない」(鈴木るみこ 『クウネル』2014年9月) 仏文科の同級生の訃報を 死後1年以上経って知る雑誌社に就職と聞いたきりだったのですが 編集者として文筆家として多く…

中原中也「一つのメルヘン」を読んで

このような詩です 秋の夜は、はるかの彼方に、小石ばかりの、河原があって、それに陽は、さらさらとさらさらと射しているのでありました。 陽といっても、まるで硅石か何かのようで、非常な個体の粉末のようで、さればこそ、さらさらとかすかな音を立てても…

遠景の少年

短歌連作「遠景の少年」十二首 髪二尺ばさりときつて少年とみまがふきみにあふ新学期 放課後の渡り廊下のトロンボーン木星といふ快楽の神 プール掃除のいつかあそびとなりし子らしぶきあがりてわらひさざめき 変声をむかへぬままに生涯ををへにし君の通夜の…

フランス語で俳句を読む

ロジェ・ミュニエ Roger Munier という人がフランス語に訳した俳句のアンソロジーを読んだ。序文によると英訳からの重訳とのこと。芭蕉・蕪村・一茶をはじめとする江戸期の俳人にまじって子規や虚子もとられている。 蕪村の「月天心貧しき町を通りけり」でイ…

私に触れるな

佐藤研『悲劇と福音』読了。 供えた花が萎れれば取り替えるようにして、月日の流れに逆らって悲しみを常に更新して生々しいままに忘れないことこそ、あすへ踏み出すためのよすがとなる。イエスの逮捕に逃げ出した罪責感と師を喪った悲しみのなかで成立したマ…

イスファハンの薔薇

短歌連作「イスファハンの薔薇」十二首 ガブリエル・フォーレの同名の歌によせて 咲くためのちからたくはへ冬薔薇はかたくつぼみをとぢてねむれる あづさゆみ春まつ庭の薔薇の芽のほのかにあかくいろづきにけり しろたへの薔薇一輪のさきそめぬあめはれてけ…