Dolcissima Mia Vita

A Thing of Beauty is a Joy Forever

2021-01-01から1年間の記事一覧

ブルックナーの第5交響曲のフィナーレについて

ブルックナーの第5交響曲は広瀬大介氏によれば「人類の至宝」とのことで、そこまで言っていいかわからないけれども、彼の交響曲の中では一番好きな曲。まるでバッハのように始まり、フィナーレもフーガで書かれた対位法的傑作。 二重フーガになっているこの…

上敷領藍子&深見まどかデュオリサイタル

ヴァイオリンの上敷領藍子さんとピアノの深見まどかさんのデュオリサイタル、疫病がはやってから初めて行く演奏会で、なまの音に飢えているところだったので心から楽しみました。感染を防ぐためにあけてある扉からかすかに蟬の声が聞こえてくるなかで聴くの…

川野芽生『Lilith』を読む

気になっていた歌集 図書館にたのんで買ってもらったら期待していた以上でした川野芽生『Lilith』 藤棚が解体されると知らずに巣を作っている鳩のようなものなのかもしれない、私は。私を構成していたはずのものは消え失せ、ネジを巻こうとしても手首のどこ…

「モロッコ、彼女たちの朝」を観た

もとのタイトルは「アダム」映画の中で生れる男の子の名前です。 生まれたばかりの赤ちゃんがほんとうに愛情をこめて撮られていて、もうそれだけでうれしい映画。泣くばかりではなくて、くしゃみしたり、おならしたり、ちいさくうめいたり、赤ちゃんの出すい…

映画「セックスと嘘とビデオテープ」を観る

低予算で作った映画らしく、贅肉のないひきしまったシンプルな構成で、四人の男女の室内楽のような会話を中心に進む。たとえば音楽に、サビのフレーズやクライマックスのようなものを、音楽で「イク」ことを人は求めてしまいがちだけれども、他方では、クラ…

映画「シンプルな情熱」を見る

映画館で映画を見たのは何年ぶりだろうダニエル・アービッド監督「シンプルな情熱」見てきましたタイトルの Passion simple はもしかして単純過去 passé simple とかけているのかな現在とは切り離して過去の出来事を述べるフランス語の時制、単純過去開始数…

ベルトラン・タヴェルニエ「田舎の日曜日」

「田舎の日曜日」Un Dimanche à la Campagne という映画のことを教えてくださったのは阿部良雄先生。フランス象徴詩の講義の合間の雑談でした。「蓮實重彦などはけなしていますが、私は大好きです」と。雑談のときだけに見せる、含羞を帯びた笑顔で。下宿か…

映画 I Am All Girls を観た

映画「アイ・アム・オール・ガールズ」I Am All Girls を観た。 2021年、南アフリカの映画。ドノヴァン・マーシュ Donovan Marsh 監督。 コンテナに幽閉されていた子どもたちとジョディが対面する場面の長い沈黙が忘れがたい。どのようなことばも無力なとき…

題詠百首2021

五十嵐きよみさん主催のFacebookのイベント「題詠100首」ことしも完走いたしました。 五十嵐さん、ありがとうございました。 2021-001:求 求愛の姿態そのまま凍らせて永久にもだせりギリシヤの壺は 2021-002:悲 悲しみの母は立ちたりみはるかすかぎり廃墟の…

顔は人格の座なのだろうか

安部公房『他人の顔』を読む。ストーリーはともかく、顔と人格をめぐっていろいろと考えさせられた。 ギリシャ神話にある物語で、暗闇の中だけで愛し合っていたエロスとプシュケの関係が破綻するのは彼女が彼の顔を見たいと欲したからだった。 顔を見なくて…

『ペレアスとメリザンド』再読

完結しない言葉。宙吊りにされて浮遊する言葉。確実なものは何一つなく。夢の中でのように、非現実にふるまう登場人物たち。メリザンドの生い立ちについてもなにひとつ明かされない。森の奥の泉での、途切れがちな会話。劇ではなく、まるで詩のように、ある…

2020年はこんな本を読んだ

2020年に読んだ本のなかから特に心に残ったものを何冊か。 鄭玹汀『天皇制国家と女性』は、教育勅語の発布をきっかけにして天皇中心の国家主義にすり寄っていく同時代のプロテスタントの牧師たちと対比して、木下尚江の、決して権力に媚びない孤高の思想をも…

スウェーリンク歿後400年

高校生のころ、FM放送の皆川達夫の水先案内で知って以来、スウェーリンクは好きな作曲家のひとり。 ヤン・ピーテルスゾーン・スウェーリンク (Jan Pieterszoon Sweelinck, 1562-1621) の、ことしは歿後400年である。今日聴いたのはニ調のファンタジア Fantas…