Dolcissima Mia Vita

A Thing of Beauty is a Joy Forever

題詠百首2021

五十嵐きよみさん主催のFacebookのイベント「題詠100首」ことしも完走いたしました。

五十嵐さん、ありがとうございました。

 

2021-001:求 

求愛の姿態そのまま凍らせて永久にもだせりギリシヤの壺は

2021-002:悲 

悲しみの母は立ちたりみはるかすかぎり廃墟のトロイアのまち

2021-003:店 

店じまひきまりしカフェにいこふひるやよひのひざしやはらかにふる

2021-004:普通 

普通でない恋をしたくて銀の皿にいとしいひとの首がほしいの

2021-005:絵 

なにもかも絵空ごとぞとおもふとき天にははなび地にはくちなし

2021-006:宛 

海のいろあをかりしかばびんづめの手紙ながしぬ宛てさきもなく

2021-007:隔 

われてもすゑにあふこともなき隔たりの波間をこゆる一羽のかもめ

2021-008:案 

身ごもれるひととかたらひあゆみけり思案橋から眼鏡橋まで

2021-009:きっかけ 

のんしゃらんのんしゃらんとてすずならすきっかけなんてきかないでくれ

2021-010:回 

回れよ回れ回転木馬まつしろのクリームつんとつのがたつまで

2021-011:外 

ともづなを解いてこぎだすよるのうみこの世の外のいづこなりとも

2021-012:洩 

木の間より洩りくる月のかげ白くいまさかりなり茉莉花のはな

2021-013:匹 

七匹の七倍かぞへてねむりなさい大きな羊と小さな羊

2021-014:料理 

巣ごもりの子らにあけくれ料理するはかなきわざをわれはするかな

2021-015:机 

来ぬひとを待つ頬杖のけだるさよ机のうへをてらすつきかげ

2021-016:拡 

第四コーナーすぎればみえるしろいおび両手拡げてまちうけるひと

2021-017:ガラス 

籠り居のガラス窓よりながむれば花は葉ざくらはるもたけなは

2021-018:区 

区切りなくさへぎるものもないままにあふれながるるわがなみだかな

2021-019:未 

をさなごに小さき靴を履かす朝きみにとつてはすべてが未踏

2021-020:忙 

忙しく行きつ戻りつみつばちは蜜あつめをり日がな一日

2021-021:国会 

導火線抱いてねむれよガイ・フォークス国会爆破決行前夜

2021-022:族 

さだめならしたがふべしとつぶやきぬ族長の母なみだうかべて

2021-023:導 

きみの手にに導かれ入る深き森昏く湿りてほのあたたかき

2021-024:脚 

脚と脚手と手からませねむりけりほととぎすなくよるはやさしく

2021-025:昼 

ひと絶えてしづまりかへる真昼間のひかりのなかのひなぎくの花

2021-026:挙 

自己紹介にパセリアボカドマラソンと嫌ひなものの列挙たのしき

2021-027:宜 

宜野湾の土を血にそめたふれたるつはものどものこゑをきかずや

2021-028:立 

夢の世にすめばなつかし夏木立こずゑの鳥のさへづりの声

2021-029:姓 

えらぶなら姓はガルシア名はペドロ鳥など飼うて世を過ぐしてむ

2021-030:ウイルス 

ウイルスをさけてつれづれなるままにきかせてください千のおはなし

2021-031:主 

主なき庭につつじの花さきぬふたしかなものその名は父性

2021-032:恒 

空のはて恒星ひとつほろぶときかすかにゆるるつるばらの茎

2021-033:多分 

多分明日その明日つひにこないままつれないひとをうらむあけくれ

2021-034:信 

しくじつたひとのおしりをたたいてはよろこぶ奴は信用できぬ

2021-035:替 

水替へて水がすむまであらひませう汚れちまつたかなしみひとつ

2021-036:裁 

裁き待つひとやのまどにしんしんとそらあをくしてなりわたる鐘

2021-037:送 

あこがれといふ名の鳩にわがなみだ託して送るはるかなきみへ

2021-038:反 

バー越ゆるせつなのせなかしなやかに反りつつとべり夏の少年

2021-039:憶 

追憶の江ノ電の駅おりたてばむかしにおなじ潮の香ぞする

2021-040:コミック 

尖塔より金色の髪ながれおつオペラ・コミック「ペレアス」初演

2021-041:斜 

風ふけば斜めになびくけむりみゆはかなきものはいのちなりけり

2021-042:該 

ガブリエルさあ行きませう該当の蛸もこんぶもここにはないの

2021-043:慕 

恋ひ慕ふこころの色はさみだれのふりこそまされやむときぞなき

2021-044:平均  

平均律浄書のつとめまかされて若き新妻アンナ・マグダレーナ

2021-045:項 

うつむいてくちべにえらぶをとめごの項のしろき秋の夜の月

2021-046:描 

夕空に弧を描きつつとぶとりはかなしからずや干潟なくして

2021-047:旦 

あたらしきみづにて雑煮つくりたり歳旦のあさこころしづかに

2021-048:出 

はかなくもなき出でにけりひとすぢのせみの声するつゆのはれまに

2021-049:徒 

手をつなぎ徒にてわたる思ひ河しのぶ逢瀬のみづのつめたき

2021-050:技 

技師と医師顔みあはする夕まぐれ予震か余震わからぬままに

2021-051:グリーン 

バーナード・グリーンハウスのチェロを聴く夜ぞふけにけるきみをまつまに

2021-052:燃 

そばにゐてくださいませな蠟燭のなみだながれて燃えつきるまで

2021-053:工 

旋盤工募集のポスター色あせて雨のにほひの京浜蒲田

2021-054:娘 

つり革にとどくせたけとなりし子のよこがほみれば娘さびたり

2021-055:拾 

わすれ貝拾はんとしてさがせどもひとつだになしえやはわすれん

2021-056:速  

おのづから遅速ありけり梅のはなひなたのものとひかげのものと

2021-057:順番 

順番にあかりともしてゆきにけりかなたに聞こゆアンジェラスの鐘

2021-058:箋  

「白き蝶とびかふゆふべ」読みかへす君の形見の白き便箋

2021-059:復 

復唱のこゑくきやかに交換手オはオランダのオでございますね

2021-060:六 

たれもかれも討ち死にしたりはつなつの六時間目の古典文法

2021-061:いっぱい 

いつぱいになるまでついでのみほせば蛇のすがたになる酒もがな

2021-062:禍 

禍ときづかぬままにあそびけり世界がうみにおほはるるまで

2021-063:正 

くりかへし正の字書きぬ姦通の女を責むるこゑをききつつ

O2021-064:笹 

あすはただわかれゆく身ぞ笹まくらかりねのやどの明かりを消しぬ

2021-065:否 

非常勤否無常勤とやいふべけむさだめなき世のわがなりはひを

2021-066:ウルトラ 

病める子の学校ごつこきりもなやウルトラマンのフイギユアならべて

2021-067:炒 

炒るほどに香りたちたり海の色まなこにのこるかたくちいわし

2021-068:去 

言ひよどむくちびるあかき去りぎはのあきのひぐれのあざみ野の駅

2021-069:農 

農道のみぎもひだりも蛙のこゑ田植ゑをはれば梅雨近づきぬ

2021-070:筋 

くちづけと愛撫のあはひやすらへば谷町筋は群青の闇

2021-071:女 

女にてまた来む世には生まれまし所詮男はたいくつなもの

2021-072:物語 

朝寝髪くしけづりつつ語りけりぬばたまの夜の夢物語

2021-073:滞 

滞る雨雲の帯ながながとわがこころにもなみだふりつつ

2021-074:圧 

圧しころす嗚咽かすかに隣室の五月の花と言へクレマチス

2021-075:忌 

エンドレスにフランス組曲きいてをり木犀かをるグレン・グールド

2021-076:ごみ箱 

わがいのち苦窳の器にほかならず詩稿やぶりてごみ箱に捨つ

2021-077:上 

てのひらの上の豆腐のひえびえと白くかがやく夏は来たりぬ

2021-078:菓 

かみあはぬ話は堂々めぐりして新宿通り氷菓一盞

2021-079:隠 

はにかみて母の裳裾に隠れしが片目のぞかせわらふをさなご 

2021-080:尚 

みづからのとげにきずつく柚子なれど尚あまりあるかをりなりけり

2021-081:あさって 

あさってもなにもないのよこねこちゃんうしろすがたがかわいいけれど

2021-082:太 

鼻緒よりペディキュアの爪ひからせて祭り太鼓にいそぐをとめご

2021-083:欧 

琴はしづかに鳴りいだすらむまぼろしの印欧祖語の写本ひらけば

2021-084:顔 

マフラーに顔をうづめてかへる子の髪かきやれば真冬のにほひ

2021-085:蘇 

さらさらと帯解くひとの面影の蘇りくるひとり寝の夜

2021-086:簿 

搭乗者名簿のなまへカタカナに読みあげられて熱帯夜更く

2021-087:苦手 

耳もとよりすこし離して声をきく苦手のひとの遠いその声

2021-088:膚 

くるくるとダーマトグラフむくやうに帯をほどけばしろき膚みゆ

2021-089:粋 

マツチ擦るつかのまみゆるまなざしの純粋にしてまさをなるうみ

2021-090:稼  

橋を焼き時を稼いで生き延びよう乏しい糧をわかちあひつつ

2021-091:ラベル 

頬紅をさせば息あるごとく見ゆひそやかに鳴れラベルのパバーヌ

2021-092:看 

反帝の立て看板を担架とせむ無援のひとを送る葬列

2021-093:規 

第一群規則動詞の活用を口ずさみつつ Marchons! Marchez!

2021-093:装 

ソロモンの栄華にまさる野の百合の装ひをせよわがたましひよ

2021-095:価 

責めるなかれ高価な油そそぎしはベタニア女のやさしきこころ

2021-096:年 

年をへてなほなつかしきものひとつアラファト議長のターバンの柄

2021-097:働 

人間も光合成をするならば働かないですむかもしれぬ

2021-098:詫 

書いては破り書いては破りしつつ書く詫びる理由のない詫び状を

2021-099:昇 

ふかしいもふたつにわればふうはりと湯気たち昇る冬の立つ日に

2021-100:嬉 

嬉しさも中くらゐなりことごとく詩歌ほろびしのちの残照