Dolcissima Mia Vita

A Thing of Beauty is a Joy Forever

川野芽生『Lilith』を読む

気になっていた歌集 図書館にたのんで買ってもらったら
期待していた以上でした
川野芽生『Lilith


藤棚が解体されると知らずに巣を作っている鳩のようなものなのかもしれない、私は。私を構成していたはずのものは消え失せ、ネジを巻こうとしても手首のどこにも竜頭がみつからない。ここは私の居場所ではない、ここではないどこかへ、しかしどこへ?ゆきどころはみつからない。世界という異郷では、人が人を恋するというのも奇習にしか思われない。油絵のほうがもしかして実在で、私はその絵を覆うガラスにつかのまうつる影あるいは夢のようなものだろうか。人ではなくて馬に生まれ変われば、蹄にかけたいものもいくつかはあるのだが。


羅(うすもの)の裾曳きてわが歩みつつ死者ならざればゆきどころなし
ひとがひとを恋はむ奇習を廃しつつ昼さみどりの雨降りしきる
みづからの竜頭みつからず 透きとほる爪にてつねりつづくる手頸
幾重もの瞼を順にひらきゆき薔薇が一個の眼となることを
瞑(めつむ)れど降るいなびかり 熱はかる手のやうに来て夢にまじりぬ

 

Lilith

Lilith

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