facebook のイベント「題詠100首」に参加して百首詠みました
主宰の五十嵐様 ありがとうございました
2019-001:我
我もまた島とならんや善悪の彼岸に寄する波のまにまに
2019-002:歓
ぬばたまの夜のふけゆけば合歓の葉のまなこをとぢてねむる吾妹子
2019-003:身
君恋ふと身も焦がれつつ燃えつきぬ闇夜に消ゆる蛍火のごと
2019-004:即
ひさかたの月のひかりのふる野べにベルガマスクの即興の劇
2019-005:簡単
簡単な和音ひとつにゆきなやむ告別ソナタさらふあけくれ
2019-006:危
震度六ゆれてこなごな姿見のひかり危き水無月のあさ
2019-007:のんびり
のんびりと毛づくろひするまどぎはの金色の毛の猫になりたし
2019-008:嫁
四輪馬車しづかにきしれはしばみの瞳あかるき花嫁のせて
2019-009:飼
ペンギンも飼育係りもなかりけり避難命令解除いくとせ
2019-010:登
肉体ははかなき器橄欖山登りしのちの睡魔はげしき
2019-011:元号
元号もやまとことばになさつたら?それほど唐(から)がお嫌ひならば
2019-012:勤
霧ふかきあさの根本中堂にふとくひびかふ勤行の声
2019-013:垣
瑞垣のひさしき世より恋ひそめき妹とへめぐる芍薬の園
2019-014:けんか
よのなかはあそびをせんとや生まれけんかりがねわたる浮き雲の空
2019-015:具
箸といふやさしき道具たべものをきずつけぬままふはりとすくふ
2019-016:マガジン
冥府よりメールマガジンとどくゆめオルフェの琴にねむる番犬
2019-017:材
材木座海岸の夏果てにけり空舞ふ鳶の声の切れぎれ
2019-018:芋
芋ひとつころがる納屋のくらがりの手負ひの鹿の風雅な眸
2019-019:指輪
バイロイト「指輪」ラジオにながれつつ煮しめくろまめ炊く年の暮れ
2019-020:仰
ふり仰ぐ空に電線スパゲッティかくもはかなき命綱かな
2019-021:スタイル
かろやかに歌ひだしたるセロのふしチャイコフスキーのロココスタイル
2019-022:酷
冷酷な神の摂理よエジプトへのがれしのちの嬰児虐殺
2019-023:あんぱん
永遠にあんまでたどりつくことのなきあんぱんを食ぶる夢見し
2019-024:猪
しながとり猪名野をゆけばぬばたまの夜空をこがす大輪の花
2019-025:系
2019-026:飢
沈丁の香りほのかに小夜ふけて「義に飢ゑ渇くひとはさいはひ」
2019-027:関係
関係文綾なす森をふみわけてプルースト読む学園の午後
2019-028:校
ぬばたまの髪ふりほどく門のそと校則といふほだしをよそに
2019-029:歳
幾歳月こえさりゆかば原子炉の消えなむ国ぞ今日もなゐふる
2019-030:鉢
すり鉢の底までたどるくらがりの巡礼の年ダンテを読んで
2019-031:しっかり
「しつかりと」ばかりいはれて生きてきた男といふ名の罰ゲームだつた
2019-032:襟
塵より出でて塵へかへると知りながらなほもゆかしき襟足の白
2019-033:絞
いつの日か時の終はりの来たりなば絞り芙蓉のままに朽ちなむ
2019-034:唄
手毬唄うたひてかへる子どもらの影ながくなる春の夕暮れ
2019-035:床
ほのかにぞ寝覚めの床にかをりけるきみのたをりしフリージアの花
2019-036:買い物
買ひ物の不便な街に住みなれてひと駅ぶんの散歩楽しき
2019-037:概
「詠歌大概」ゆきなやみつつよむ日々の春のはじめのゆきやなぎ咲く
2019-038:祖
添へられしやさしき祖父の手の記憶はじめて鋸をもつをさなごに
2019-039:すべて
2019-040:染
つぼみいまだかたしといへど紅ほのか染みつつかすむ桜の並木
2019-041:妥
たましひのくらがり峠今日も雨妥協といふことつゆしらぬまに
2019-042:人気
人気なきあさのひろばをひとりじめ公園デビューの子のほがらかに
2019-043:沢
思ひ川わたればくらき通ひ路に沢の蛍のあくがれいづる
2019-044:昔
魂を陰干しにして春ふかく昔のひとをしのぶもぢずり
2019-045:値
靴ひもを解く値うちさへなき我といへども春のあはれ身にしむ
2019-046:かわいそう
選挙車の連呼に目覚め泣き叫ぶかはいさうな子選挙滅びよ
2019-047:団
よもぎつみゆがけば青みあざやかに春の団子にいろどり添ふる
2019-048:池
2019-049:エプロン
病める子のつぶらまなこにあまえれば添ひ寝せむとてエプロンはづす
2019-050:幹
惨憺と臓腑あらはに折れにけり野分すぎにしのちの木の幹
2019-051:貼
あづけたる園の電話にはせゆけばちひさき額に熱さまし貼る
2019-052:そば
そばへ過ぎいこまの山をながむればかすかにのこる虹の断片
2019-053:津
津のくにのなにはなくとも湯豆腐と納豆あればみちたりて生く
2019-054:興奮
なぜみんなそんな興奮してゐるのどこぞの家の代替りなのに
2019-055:椀
くれなゐのうるしの椀に汁はればかつをのだしの香のにほひたつ
2019-056:通
須磨の海ほがらほがらにあけゆけば通ふ千鳥の声ぞかなしき
2019-057:カバー
柳腰のその名はローラ夜もすがらコパカバーナにをどりをどれば
2019-058:如
夢の世に身のおきどころなきままに如月やよいはやも過ぎにき
2019-059:際
生え際に産毛のけぶるみどりごにほほをよすればミルクのにほひ
2019-060:弘
あしたより夕べをこのみ春よりも秋を愛する弘子なりけり
2019-061:消費
消費者であることに倦む夕まぐれさいふもたずにさまよひあるく
2019-062:曙
さよならもいはずわかれし人思ふ夢のもつれのはての曙
2019-063:慈
しろたへの雪のはだへのいとし子を蝶よ花よと慈しみつつ
2019-064:よいしょ
ひさかたのひかりの朝のふつかよいしょせんこの世はうたかたの夢
2019-065:邦
ムルソーのもとには来ずや異邦人救ふといへる万軍の主は
2019-066:珍
吾妹子よいざ旅に出ん珍しき花々の咲く閑雅のくにへ
2019-067:アイス
すずやすず風鈴をだまきくりかへしアイスキュロスの韋編たえつつ
2019-068:薄
ゆすらうめ薄くやさしきももいろのはなさく庭をしばしたたずむ
2019-069:途
むらさめにひぐらしのこゑ途絶えしてさりゆく夏の花園のゆめ
2019-070:到
はかなしや滅びに到る河ならんタイムラインにはなびらながれ
2019-071:名残り
夕かげの名残りたゆたふくれなゐの山の端みればいでし月かも
2019-072:雄
狷介な雄のけもののにほひして走りすぎにし体育少年
2019-073:穂
はるかなるひとを恋ふとてふすよるもへだたる世にも穗にいでめやも
2019-074:ローマ
あんず咲くローマの春の謝肉祭やそのちまたにあへる子や誰
2019-075:便
花便りとどきにけりなたれこめて春のゆくへも知らぬわが身に
2019-076:愉
恋衣おもひおもひに染めなしてさくらの下の愉しきうたげ
2019-077:もちろん
くれなゐの色あざやかにさくらもちろんぱろんなん我がことにあらず
2019-078:包
清明のやさしき雨に包まれてさくら咲く村はるかにけぶる
2019-079:徳
園児らの「如来大悲の恩徳は」こゑをさなくもうたひけるかな
2019-080:センチ
身の丈の五十センチのみどりごもいつしかわれに肩ならべける
2019-081:暮
日一日日暮れのおそくなる庭の茉莉花の芽のあかくいろづく
2019-082:米
あすの米あらふくりやの小夜ふけてさくらをちらす雨ふりやまず
2019-083:風呂
風呂あがり寝入りしひとのぬばたまの髪かきやればかはききらずも
2019-084:郵
日に一度ひづめもかるくかけりくる郵便馬車を待ちがてにして
2019-085:跳
重力にさからつて跳ぶ日々あつく陸上男子の夏のたけなは
2019-086:給料
給料をもらはずなりていくそとせ零細自営たのしからずや
2019-087:豊
豊頰をほのかにそめてをとめらのいでたつ野辺にみどりもえいづ
2019-088:喩
世のなべてうつろふものはかりそめの比喩にすぎぬとゲーテはいへり
2019-089:麺
あさまだきまだあたたかき麺麭を買ふカルチエラタンのしきいしのうへ
2019-090:まったく
まつたくのまの字略して発音するやうな人にはなりたくもなく
2019-091:慎
子をやどすひとの象形と知りしより身といふ文字を慎みて書く
2019-092:約束
約束は藍色なりきさゆりばの知られぬ恋ぞ淵となりぬる
2019-093:駐
時じくの雪ぞふりけるこま駐めてそでうちはらふはるのゆふぐれ
2019-094:悟
雲となり雨となりても逢ふことのかなはぬ恋と悟りぬるかな
2019-095:世間
世間体といふ縁なきことばあり花散る里の抒情組曲
2019-096:撫
はしきやしめぐしと日ごろ撫でし子の花より団子の食べざかりかな
2019-097:怨
ほのぼのと明石の浦の怨みてもまだあまりあるわがなげきかな
2019-098:萎
いちはつの散らまくをしみ手折れどもいのちはかなく萎れたりける
2019-099:隙
戸の隙間白馬のよぎるつかのまのゆめまぼろしの世をわたりゆく
2019-100:皆
ことごとく皆のむといふぬばたまのブラックホールにのまるるもよし