Dolcissima Mia Vita

A Thing of Beauty is a Joy Forever

2020-01-01から1年間の記事一覧

ホ長調のベートーヴェン

イグナート・ソルジェニーツィン Ignat Solzhenitsyn の演奏でベートーヴェンの3つのピアノソナタをおさめたディスクを聴く。 作家のソルジェニーツィンの息子なのだそうだ。 27,28,29番。作品番号でいうと作品90、101、106。 ペダルをあまり使わず、ノン…

犯行の動機について

強盗や窃盗の犯人の逮捕を報じる記事で、犯行の動機として決まり文句のように書かれる「遊ぶ金が欲しかった」 ほんとうに、判で押したように、どの犯人も「遊ぶ金が欲しかった」。気味が悪いほどに。 ほんとうにみんな、遊ぶ金が欲しくて金を奪ったのだろう…

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』を読む

「真理は死の側にある」La vérité est du coté de la mort. シモーヌ・ヴェイユの『重力と恩寵』の中にあることばである。 このことばから、真(眞)という漢字の成り立ちを思う。 この字は横死した人の死体を表していた。死という字の右半分と同じ形が眞の…

シモーヌ・ヴェイユの詩

シモーヌ・ヴェイユ Simone Weil の詩「扉」La Porte を読む。 自分なりに訳したものを下に掲げます。 扉を開けてください、果樹園が見えるように。 月影のうつるその冷たい水を飲みましょう。 よそものにはつらい灼けつくような長い道のり、 なにもわからず…

藺草慶子『櫻翳』を読む

藺草慶子の句集『櫻翳』(おうえい)を読みました。 黒板に数式のこる春の雪 私が思い浮かべたのは、東北の地震のあと、生徒全員が避難したあとのがらんとした教室の情景でした。当たり前と思っていた日常からむりやり引きはがされたあとの、日常の名残のよ…

シェーンベルクの木管五重奏曲

お昼ごはんの支度をしながらシェーンベルクの木管五重奏曲作品26を聴いていたら、妻が帰ってきたので、思わず「ごめん、変な曲聴いていて」と謝ってしまった。 「聴いている人に謝らせるような曲を書く人もどうかと思うわ」と妻。 それでもこの曲、なかなか…

ひそかに歌う マリアン・コンソートの音楽

発売初日に切符を買って心待ちにしていた 英国のアカペラグループ、マリアン・コンソート Marian Consort の演奏会、今月の17日に予定されていたのが疫病の流行のために延期となり、がっかりしています。 それで、彼らの最新アルバムを買って、少しでも応援…

「七日間ブックカバーチャレンジ」やってみました

インスタグラムで #7日間ブックカバーチャレンジ というものに声をかけていただいたのでやってみました naoya matsumoto on Instagram: “Voici des fruits, des fleurs, des feuilles et des branches Et puis voici mon cœur qui ne bat que pour vous. (Ve…

全世界を流謫の地とすること

12世紀の哲学者 ユーグ・ド・サン・ヴィクトル Hugue de Saint Victor (サン・ヴィクトルのフーゴーと表記されることもある)の著作をぼつぼつ読んでいる。 パリのサン・ヴィクトル修道院で活躍したこの人は、有名なピエール・アベラール(エロイーズとの恋…

清明に生まれて

16年前のきょうは肌寒い曇りの日だった。日曜日で仕事は休みで、みんな家にいた。夕方に妻が産気づいたので、かねてからお願いしていた助産師さんに電話して来ていただいた。80代と50代の二人の助産師に両脇を支えられて赤ん坊が産み落とされたのは6時すぎだ…

カシワバアジサイと五目豆

雨上がり 庭に出ると緑が濃くなっていて、春がまた少し進んだ感じがします。カシワバアジサイの若葉が萌えいでていました。 久しぶりに五目豆を作る。前の晩から大豆を水につけて戻しておいたところに昆布としいたけを入れてふやかして、火をつける。コトコ…

人間は弓、神は射手

ペルシャの詩人ルーミー Rumi(1207-1273)の『ルーミー語録』(井筒俊彦著作集第11巻)のなかにこんな一節を読んだ。 人間は神の権能の右手(めて)に握られた弓のようなものである。神がその弓をいろいろなことをするのにお使いになる。この場合、本当の行…

天地は仁ならず

生田武志著『いのちへの礼儀』を読みおわって、その問いの射程の広さと深さに驚嘆し、まだ消化しきれずにいる。 本の終りの方で、チェルノブイリ原子力発電所の近くの立入禁止地帯のことが出てくる。住民が強制退去させられて無人の町となって数十年、当初は…

ハリール・ジブラーン『預言者』再読

レバノンの作家 ハリール・ジブラーン Kahlil Gibran が英語で書いた著作『預言者』The Prophet 詩的な哲学的箴言が断章の形で書かれている。 ニーチェのツァラトゥストラを思わせる孤独な魂が山を下りて、街の人々に乞われるままに説教をする。 ちょっと説…

「ワーニャ伯父さん!」を見て

近くの公民館でチェーホフの劇「ワーニャ伯父さん!」を見てきました。 YOU-PROJECT というグループによる上演、演出は松浦友という方です。 タイトルにある「!」は原文のままです。原作を大幅にアレンジしたものという意味をこめて、このマークなのでしょ…

彩瀬まる『森があふれる』を読んで

彩瀬まる『森があふれる』を読みながら思い出したのは川端康成の小説『美しさと哀しみと』でした。 中年の作家が十代の少女に恋をして、妊娠させて堕胎させて見捨ててその人生を狂わせ、その体験を小説に書き、その浄書を妻にさせる。少女も妻も、作家に反抗…

シュトラウスの家庭交響曲について

私個人のリヒャルト・シュトラウスのベストテンでは長年にわたってつねに上位の曲のひとつが「家庭交響曲」Sinfonia Domestica です。 ツァラトゥストラや英雄の生涯は、なんだか聞き飽きたなと思ってしまうのに、この曲はけっしてそんなことがない。 巨大な…

ブラームスのヘンデル変奏曲

ブラームスの「ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ」Op.24 は好きな曲の一つ。 パガニーニ変奏曲には手も足も出ないけれどこれは何とか弾けるかしらと思って、無謀にも全曲さらったこともありました。 細かいレースに縁どられたような繊細なヘンデルの主題…

カラヴァッジョ「聖母の死」

つれづれなるままに街に出て、カラヴァッジョの絵を見てきました。ジェンティレスキ父娘など、彼と関わりのあった同時代の絵描きたちも一緒に。はじめて知る名前も多くて勉強になる。明暗のコントラストで対象を際立たせる技法は、実物を目の当たりにしては…