発売初日に切符を買って心待ちにしていた 英国のアカペラグループ、マリアン・コンソート Marian Consort の演奏会、今月の17日に予定されていたのが疫病の流行のために延期となり、がっかりしています。
それで、彼らの最新アルバムを買って、少しでも応援することにしました。
同じものを AppleMusic などでも聴けるのですが、彼らのサイトからCDを買うほうが少しでも助けになるかしらと思って。
CDを買うのは久しぶりでしたが買ってよかった。主宰のロリー・マクリリー Rory McCleery によるくわしい解説と羅英対訳の歌詞が鑑賞に役立ちます。
”Singing in Secret" (ひそかに歌う)というタイトルのアルバム、英国後期ルネサンスの作曲家 ウィリアム・バード William Byrd の作品を集めたもの。
エリザベス女王とジェームズ一世の治世に生きた作曲家です。カトリックが英国国教会に叛逆するものとして迫害され、露見すれば逮捕・拷問・死刑だったこの時代、カトリック教徒は神父を民家などに匿って、そこでひそかにミサを行っていた。ちょうど同じ時代の日本のキリシタンのように。
自身もカトリック教徒のバードが、宮廷の命で国教会の礼拝のための音楽を書く一方で、このようなカトリックの非合法のミサのために多くの曲を書いたばかりでなく、危険をおかして出版までしていた、その中からラテン語のミサ曲とモテットを何曲か選んで、このアルバムに収めています。
冒頭の Miserere Mei (あわれみたまえ)は、処刑される直前のイエズス会神父が唱えたという詩篇の詩句をテキストに。
最後の Infelix Ego (不幸なるわが身)は、教皇を批判したかどで破門されたジローラモ・サヴォナローラが、やはり処刑直前に書いた詩をテキストに。
特にこの二曲から聴きとれるのは、自らの弱さの自覚と絶望を通しての希望、弾圧にもかかわらず信仰を貫こうという強い意志です。
去年の八月に録音されたというこのアルバムは、人々がひきこもりを余儀なくされているいまの世界を予告しているかのように思えます。
もしかしたら、この音楽は、大勢人の集まる演奏会場ではなく、孤独な部屋で静かに聴かれることを望んでいるのかもしれない。
ひっそりとひきこもり、未来へのはっきりした希望のもてない、この不確かな日々、ウィリアム・バードの音楽はなおさら切実に、心に響いてくるような気がします。