Dolcissima Mia Vita

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Poésie

題詠100首 2023

五十嵐きよみさん主催の「題詠100首」完走いたしました。主催の五十嵐さま、お世話になりありがとうございました。 2023-001:引 引き潮やあらはれいづる磯浜に春日を浴びて蟹とたはむる 2023-002:寝 みみづくも濡れそぼつらむひさかたの雨音しげく聞こゆる寝…

菅原百合絵『たましひの薄衣』を読む

人死にて言語(ラング)絶えたるのちの世も風に言の葉そよぎてをらむ 歌集の終り近くに置かれた、「禁色」と題された連作のなかの一首である。 源氏物語の柏木の禁断の恋をめぐる歌ではじまり、禁書目録、猥褻本の著者の追放、サヴォナローラの焚書、炎に包…

タラス・シェウチェンコの詩

タラス・シェウチェンコ(Тара́с Григо́рович Шевче́нко, 1814~61)は、ウクライナ文学の始祖とされる詩人。ロシア語式の発音では「シェフチェンコ」になる。その詩「遺書」Заповiт を読む。はじめにフランス語訳、つづいてウクライナ語原文、さいごに日本語…

川野芽生『Lilith』を読む

気になっていた歌集 図書館にたのんで買ってもらったら期待していた以上でした川野芽生『Lilith』 藤棚が解体されると知らずに巣を作っている鳩のようなものなのかもしれない、私は。私を構成していたはずのものは消え失せ、ネジを巻こうとしても手首のどこ…

シモーヌ・ヴェイユの詩

シモーヌ・ヴェイユ Simone Weil の詩「扉」La Porte を読む。 自分なりに訳したものを下に掲げます。 扉を開けてください、果樹園が見えるように。 月影のうつるその冷たい水を飲みましょう。 よそものにはつらい灼けつくような長い道のり、 なにもわからず…

藺草慶子『櫻翳』を読む

藺草慶子の句集『櫻翳』(おうえい)を読みました。 黒板に数式のこる春の雪 私が思い浮かべたのは、東北の地震のあと、生徒全員が避難したあとのがらんとした教室の情景でした。当たり前と思っていた日常からむりやり引きはがされたあとの、日常の名残のよ…

「七日間ブックカバーチャレンジ」やってみました

インスタグラムで #7日間ブックカバーチャレンジ というものに声をかけていただいたのでやってみました naoya matsumoto on Instagram: “Voici des fruits, des fleurs, des feuilles et des branches Et puis voici mon cœur qui ne bat que pour vous. (Ve…

日本のレジスタンス俳句

フランス出身で日本語で俳句を作るマブソン青眼 (Seegan Mabesoone) が1929年から1945年までのレジスタンス俳句を撰び、フランス語訳をつけ、日仏両方で序文を書いた本『日本レジスタンス俳句撰』(PIPPA Editions, 2017)を読む。 収録されている俳人は知ら…

中原中也「一つのメルヘン」を読んで

このような詩です 秋の夜は、はるかの彼方に、小石ばかりの、河原があって、それに陽は、さらさらとさらさらと射しているのでありました。 陽といっても、まるで硅石か何かのようで、非常な個体の粉末のようで、さればこそ、さらさらとかすかな音を立てても…

フランス語で俳句を読む

ロジェ・ミュニエ Roger Munier という人がフランス語に訳した俳句のアンソロジーを読んだ。序文によると英訳からの重訳とのこと。芭蕉・蕪村・一茶をはじめとする江戸期の俳人にまじって子規や虚子もとられている。 蕪村の「月天心貧しき町を通りけり」でイ…

征矢泰子の詩

空蝉、木乃伊、鯉幟り。 詩人が好んで題材にするのはからっぽなもの、たましいも五臓六腑もぬぎすてた、風の吹き渡る空虚。 解体されるうさぎの目になみだを見、衰微していくバラからぬけだすたましいを見、みずからの魂をメリーゴーラウンドにのせてみつめ…

塚本邦雄の歌

天使キャラメル広告塔に昼死せる天使がむらさきのうす笑ひ (『日本人霊歌』) 1958年に上梓された歌集のなかの歌 その3年前には森永製菓の関連企業の森永乳業が粉ミルクに混入した砒素による中毒事件で多くの犠牲者を出している そういう時代背景に即して読む…

ボードレール「夕べの諧調」

Voici venir les temps où vibrant sur sa tigeChaque fleur s'évapore ainsi qu'un encensoir;Les sons et les parfums tournent dans l'air du soir;Valse mélancolique et langoureux vertige! 時は来て 茎にふるえつつ 花々は香炉のように蒸発する 音と…

椎の木

立ち寄らん蔭かげと頼みし椎しひが本もとむなしき床になりにけるかな 源氏物語を読んでいたらこんな歌がありました 「椎本」の巻の名前の由来にもなった 薫が八の宮の死を悼んで詠んだ歌です これを読んで思い出したのは芭蕉の幻住庵記の最後に記された句 先…

木下利玄の歌

心行きて指尖(ゆびさき)となりなでてゐる女のまろくしろきたたむき 子の生れ子の死に行きし夏すぎて世は秋となり物の音すむ 木下利玄の歌は響きが良い はじめの歌 心が指さきを通って女の腕に触れている 指ではなく心がなでている 指さきから心がしみでてい…

笹まくら

菅原や伏見の里のささ枕ゆめもいくよの人目よくらむ(順徳院、続後撰730) 住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人めよくらむ(藤原敏行、古今) これもまたかりそめぶしのさゝ枕一夜の夢の契りばかりに(藤原俊成女) 順徳院の歌のもとになったのは藤原…

テオフィル・ゴーチエ「白鳥の歌」試訳

À propos du ‘Chant du Cygne’ Le cygne, lorsqu’il sent venir l’heure suprême,En chants mélodieuxÀ la blonde lumiêre, au beau fleuve qu’il aime,Soupire ses adieux ! Ainsi cette pauvre âme, à la rive lointaine,Lasse de trop souffrir,S’exhalai…