1786年に生まれ、1859年に世を去ったマルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール Marceline Desbordes-Valmore というフランスの詩人のことはあまりよく知られていないかもしれないが、フランス文学史では必ず出てくる名前である。
バルザックやユゴーと同時代人であるが、評価されるようになったのはむしろ死後、ボードレールやヴェルレーヌたちによってだった。
フランス詩では伝統的に1行12音節のアレクサンドランの詩法が愛されてきたが、この詩人は1行11音節(Hendécasyllabe)を初めて採用したと言われる。例えば
Ô champs paternels hérissés de charmilles
Où glissent le soir des flots de jeunes filles !
のように。
これから読む詩は、伝統に則ったアレクサンドランで書かれている
Pour me plaindre ou m’aimer je ne cherche personne ;
J’ai planté l’arbre amer dont la sève empoisonne.
Je savais, je devais savoir quel fruit affreux
Naît d’une ronce aride au piquant douloureux :
Je saigne. Je me tais. Je regarde sans larmes
Des yeux pour qui mes pleurs auraient de si doux charmes :
Dans le fond de mon cœur je renferme mon sort,
Et mon étonnement, et mes cris, et ma mort.
Oui ! je veux bien mourir d’une flèche honteuse ;
Mais sauvez-moi, mon Dieu ! de la pitié menteuse.
Oh ! la pitié qui ment, oh ! les perfides bras,
Valent moins qu’une tombe à l’abri des ingrats.("La ronce" par Marceline Desbordes-Valmore)
同情してくれる人も 愛してくれる人もいらない
苦い樹を植えた 樹液に毒のある樹を。
知っていたし 知るべきだった いかに恐ろしい果実が
痛いとげのある不毛のいばらから生まれるか。
私は血を流す。沈黙する。涙を流さずに見る。
涙が甘い魅力であったかもしれない目で。
心の奥に閉じこめるのは私の運命
そして私の驚き、私の叫び、私の死。
そうだ 不名誉な矢にあたって死にたいと思う
しかし お救いください 神よ! いつわりのあわれみから。
ああ 嘘をつく同情! 不実な腕に抱かれるよりは
恩知らずから守られる墓のほうがまだまし。
(マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール「いばら」拙訳)
1843年に発表された詩集 "Bouquets et prières"(花束と祈り)に収められた詩。タイトルの La ronce はバラ科で、木イチゴのような、棘のある植物であるようだ。他人の同情を寄せつけようとしない、孤独に苦しむ魂の象徴であろうか。

同情
6行めの"Des yeux pour qui mes pleurs auraient de si doux charmes." の訳は自信がない。des yeux は avec des yeux と言い換え可能なのだろうかと解釈して訳してみた。
全体に、人間不信と言えばいいか、一人で黙って血を流して苦しみに耐える、そんな孤独な、しかし感傷と無縁な肖像が浮かび上がってくる詩である。