ロジェ・ミュニエ Roger Munier という人がフランス語に訳した俳句のアンソロジーを読んだ。序文によると英訳からの重訳とのこと。芭蕉・蕪村・一茶をはじめとする江戸期の俳人にまじって子規や虚子もとられている。
蕪村の「月天心貧しき町を通りけり」でイメージしていたのは天頂の月がモノクロームに沈む町の上をゆっくり渡っていく様子で、人はその中の蟻のような点景。ちょうど蕪村の絵のように。しかしこの仏訳では
La lune au plus hautー
je traverse
un quartier pauvre
となって je に面食らう。私が舞台の中央に出て月は添え物となる。たとえば不定法を使って traverser とすれば人称があいまいになってよかったのではなかろうか。通り過ぎるのは月でもあり人でもあるはずなのだから。
芭蕉の「閑さや岩にしみ入る蝉の声」は
Silenceー
le cri des cigales
taraude les roches
tarauder という動詞は「(ねじなどの)穴をあける」という意味で、しみ入るというのとはずいぶんずれる気がする。
私の好きな園女の句「おうた子に髪なぶらるる暑さかな」は
L'enfant sur mon dos
joue avec mes cheveuxー
la chaleur!
真夏に幼い子を育てたことのある身としては「うんうん、わかるわかる!」です。
下に挙げるのは画像検索からお借りした蕪村の絵。自然が主役、人は脇役。