Dolcissima Mia Vita

A Thing of Beauty is a Joy Forever

Journaux Intimes

インバルのマーラー10番

ようやく大阪にもエリアフ・インバルが来てくれて、マーラーのなかでも特別に好きな第10交響曲を聴きにいきました。 デリック・クックによる補筆完成版はめったに演奏されることがなく、大阪フィルにとっても初めてなのだそうです。私が実演で聴くのも、20代…

クリスマスと新年のカンタータ@神戸

お友だちのお友だちが行けなくなったとのことで切符を譲ってもらった音楽会を聴きに、神戸・六甲の松蔭女子大学チャペルへ行ってきました。鈴木優人指揮のバッハ・コレギウム・ジャパンを聴くのは10月のヘンデル『ジュリオ・チェーザレ』以来ですが、きょう…

ジュリアード四重奏団@西宮

キンモクセイの香る秋の夜、ジュリアード四重奏団の室内楽を楽しんできました。 プログラムは ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲第13番 op.130 ヴィトマン: 弦楽四重奏曲第8番(ベートーヴェン・スタディⅢ) ヴィトマン: 弦楽四重奏曲第10番「カヴァティーナ…

バッハ・コレギウム・ジャパンの『ジュリオ・チェーザレ』

ほとんど予備知識のないままに、初めて見に行ったバロックオペラ、ヘンデルの『ジュリオ・チェーザレ』を楽しんできました。ステージ上の楽団を取り囲むようにして歌手が演じて歌う、セミステージ形式です。開幕早々、チェーザレの第一声に驚き。カウンター…

韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター』を見た

心の底から静かに揺さぶられるほんとうにすばらしい物語。これだから韓国ドラマはやめられない。 最終話のお葬式の場面、これほど温かい気持ちになるお葬式は見たことがなかった。 ドンフン役のイ・ソンギュンの声は暖かく深みがあってセクシーで、人を安心…

39年ぶりのドン・ジョヴァンニ

見に行くのは何十年ぶりかしら、フランス文学のゼミでモリエールのドン・ファンを読んだとき、先生に誘われて映画のドン・ジョヴァンニを銀座のヤマハホールで見て以来、数えてみたら39年ぶりに、モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』を見てきました。 佐渡裕…

桜の花の唯一無二であることについて

桜の花を見るとき、いま目の前に咲いている桜だけではなくて、これまで生きてきたなかで見た無数の桜が、見た場所や情景や、一緒に見た人とともに、意識していてもしていなくても、まるで倍音のように、あるいは不可視の光のように同時にそこに重ねられ、過…

『マディソン郡の橋』を見て婚外恋愛を問い直す

『マディソン郡の橋』は、原著が話題になったころ翻訳で読み、その後原書でも読み、だいぶたってから映画を見、気に入ったので何度も見、原著を忘れかけていたので再読して、今ここ。原作と映画とずいぶん趣がちがっている。原作はロバートの独白、しかもし…

ユリアンナ・アヴデーエワ ピアノリサイタルを聴く

ユリアンナ・アヴデーエワ ピアノリサイタル。大阪・福島のザ・シンフォニーホールで聴いてきました。 はじめに演奏されたショパン「幻想ポロネーズ」は愛してやまない曲。ポロネーズという曲種はどちらかといえば苦手で、一つにはABAのわかりやすすぎる形式…

アリス・リヴァ『みつばちの平和』を読む

アリス・リヴァ『みつばちの平和』(正田靖子訳)読みました。男は破壊するばかりで暴力しか知らず、後片付けはいつも女の役目になってしまうこの世界への異議が静かに語られます。スペイン内戦の時代、迫りくる世界戦争を予感しつつ『みつばちの平和』を書…

「よろしゅうおあがり」という表現

関東よりも関西に住んだ年月のほうが長いとはいえ、生まれが関東なので、いまでも関西は異郷のような感じがしている。その関西に住んで初めて知ったのは「食べる」を意味する「呼ばれる」というふしぎな表現。 「せっかくやし、夕飯たべていき」「おおきに、…

反ルッキズム文学としての『春琴抄』

外見の美醜にとらわれるルッキズムからほんとうに自由になるためには、人は盲目にならなければならないのだろうか。 文字通り盲目でなくても、たとえばオーケストラ団員のオーディションで、カーテンなどで仕切って演奏を審査する例を聞いたことがある。見え…

人間に葉緑素があるならば

人間が葉緑素をもつようになる未来を夢見てみる。はじめは体が緑色なのに驚いても、じきに慣れる。光と空気があれば生きていけるのならば、もはや飢餓は存在せず、1ミリも畑を耕す必要もない。労働から解放されて、緑の肌を寄せ合って遊び暮らす未来は、悪く…

「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」を見た

男性の出演者の中でただひとり男らしくない(褒めています)ウ・ヨンウの父親が好きだった。 自閉症の子どもをシングルファーザーとして育てる。なんてすばらしい父親。どんなに大変だっただろう。4歳まで一言も発しなかった子が初めて話し始めたときの喜び…

顔は人格の座なのだろうか

安部公房『他人の顔』を読む。ストーリーはともかく、顔と人格をめぐっていろいろと考えさせられた。 ギリシャ神話にある物語で、暗闇の中だけで愛し合っていたエロスとプシュケの関係が破綻するのは彼女が彼の顔を見たいと欲したからだった。 顔を見なくて…

犯行の動機について

強盗や窃盗の犯人の逮捕を報じる記事で、犯行の動機として決まり文句のように書かれる「遊ぶ金が欲しかった」 ほんとうに、判で押したように、どの犯人も「遊ぶ金が欲しかった」。気味が悪いほどに。 ほんとうにみんな、遊ぶ金が欲しくて金を奪ったのだろう…

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』を読む

「真理は死の側にある」La vérité est du coté de la mort. シモーヌ・ヴェイユの『重力と恩寵』の中にあることばである。 このことばから、真(眞)という漢字の成り立ちを思う。 この字は横死した人の死体を表していた。死という字の右半分と同じ形が眞の…

全世界を流謫の地とすること

12世紀の哲学者 ユーグ・ド・サン・ヴィクトル Hugue de Saint Victor (サン・ヴィクトルのフーゴーと表記されることもある)の著作をぼつぼつ読んでいる。 パリのサン・ヴィクトル修道院で活躍したこの人は、有名なピエール・アベラール(エロイーズとの恋…

清明に生まれて

16年前のきょうは肌寒い曇りの日だった。日曜日で仕事は休みで、みんな家にいた。夕方に妻が産気づいたので、かねてからお願いしていた助産師さんに電話して来ていただいた。80代と50代の二人の助産師に両脇を支えられて赤ん坊が産み落とされたのは6時すぎだ…

バーチャルなものとリアルなもの

ヨハネによる福音書の第20章、復活したイエスをまだ見ていない弟子トマスが他の弟子たちに「私はその手に釘の痕を見、指を釘の痕に入れ、手をその脇に入れるまで信じない」と言う場面がある。 Doubting Thomas という成語も生まれたこの逸話で、トマスは昔か…

人はみなキマイラを

人はなぜ子どもに夢を語らせたがるのだろう なぜおとなは「将来なにになりたいか」を子どもにたずねることを好むのだろうか。なにものかになってほしい、なにものでもないものにはなってほしくない、名づけうるなにものかになれ、そういう呪縛を子どもに課す…

私に触れるな

佐藤研『悲劇と福音』読了。 供えた花が萎れれば取り替えるようにして、月日の流れに逆らって悲しみを常に更新して生々しいままに忘れないことこそ、あすへ踏み出すためのよすがとなる。イエスの逮捕に逃げ出した罪責感と師を喪った悲しみのなかで成立したマ…

スピノザの人間観

Humanity cannot be the final end of Nature, because she is infinite, and must make use of us, as with all other things, as an instrument.— Spinoza, Baruch (1661) Short Treatise on God, Man and his Well-being 人間が自然の究極の目的であるは…

けやき通りの新緑

母が逝ってきのうで十年 横浜生まれで 大戦中空襲で家を焼かれ 鎌倉に疎開した人でした アメリカのこと憎くないの と生前尋ねたことがあります 憎くない という答えに引いてしまった記憶 なぜ憎まないのだろう ふしぎです 自分が同じ立場ならば憎んでいたに…

鳥ならば飛び立ちなまし世のなかのはなしの接ぎ穂見いだしかねて

いい天気の一日 午後から中学の末娘の担任の先生の家庭訪問でした 28歳の先生は別世界の人みたいで話がかみあわず 言おうとしていたこともいい忘れてしまいました ひとと話をするのが苦手です だれとも話をせずに生きていければいいのにな

うつくしきことしか言はぬ人びとに倦みたる果ての若楓かな

選挙に立候補した人はきれいなことしか言わないな などと考えはじめると投票する気がなくなってしまうのですが なんだかなと思いながらも行ってきましたよ 近くの公園の若楓の緑が目にしみました 天皇への親近感をもつ人が76%という報道 ずいぶん高いんだな…

春の日差しのなか

穏やかな春の日差しの中を歩く 和服姿の女の人と紺のスーツの男の子 ーこの道も今日が最後か ーそうだね 切れぎれにそんな会話が聞こえてきました 卒業式だったんですね おめでとうございます いい天気で良かった いいことありますように

In Memoriam

哲学科の授業を覗いてみたいと言ったらバレないからおいでよと潜り込ませてくれた リーゼンフーバーの聖書研究会にも誘ってくれた バッハとグレン・グールドが好きで意気投合した ほんとうはだめなんだけどねといいながら学生寮に一晩泊めてくれた 司祭にな…