Dolcissima Mia Vita

A Thing of Beauty is a Joy Forever

カラヴァッジョ「聖母の死」

つれづれなるままに街に出て、カラヴァッジョの絵を見てきました。
ジェンティレスキ父娘など、彼と関わりのあった同時代の絵描きたちも一緒に。
はじめて知る名前も多くて勉強になる。
明暗のコントラストで対象を際立たせる技法は、実物を目の当たりにしてはじめて味わえるものでした。特に闇の濃さ。
対象をひたすら忠実に描くリアリズムは、それに先立つ時代の歪曲に満ちたマニエリスムとははっきり一線を画していることが素人目にもわかります。
印象に残った一枚はカラヴァッジョの「聖母の死」

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タイトルを伏せて見れば、名もない庶民の女性が息を引き取ったばかりの生々しい現場にしかみえない。着衣は乱れ、両手は広げられ、素足が覗いている。
そのあまりに生々しい描写のゆえに、委嘱した修道院はこの絵に満足せず、受け取ろうとしなかった。
実際、カラヴァッジョが聖母のモデルにしたのは知り合いの娼婦だったのだそうです。
世俗的な題材を使って聖なるものを描く。世俗的なものの中にこそ聖性が宿ると言えるでしょうか。
ルネサンスの作曲家が、流行歌を主題にしてミサ曲を書いた「パロディミサ」のことや、自作の世俗曲をカンタータに転用したJ.S.バッハのことを思い出しました。
亡骸の手前で顔を伏せる女性も心に残る。マグダラのマリアを描いたとされていますが、顔を描かず、うつむいた背中の形だけで、その悲嘆の極みが、ありありと伝わってきます。