近くの公民館でチェーホフの劇「ワーニャ伯父さん!」を見てきました。
YOU-PROJECT というグループによる上演、演出は松浦友という方です。
タイトルにある「!」は原文のままです。原作を大幅にアレンジしたものという意味をこめて、このマークなのでしょう。
意表を突かれたのは、若く美しい後妻エレーナを声だけの出演にしたこと。
退屈な田舎に突然現れたエレーナのことが、ワーニャ伯父さんも医師アーストロフも気になって仕方がなくて、主人の目を盗んで花を贈ったり抱きついたりするのですが、それが舞台隅に置かれたマネキン人形に対してだというのが、不自然で異様で滑稽な感じです。
演出の意図はわかるような気がします。だれかに惚れているときは、実体ではなくてまぼろしに惚れているにすぎないのだということ。だれかに尽くしたつもりでも、すべてはまぼろしだということ。
それに耐えられずに自殺するか、それを忘れるために仕事に没頭するか。
ラストシーンでワーニャ伯父さんとソーニャがひたすら金勘定をするのは、絶望を忘れるためなのかもしれない。逃避としての仕事。
原作ではワーニャ伯父さんは47歳という設定。これは当時の平均寿命を考えればかなりの老齢なのでしょう。「仮に60歳まで生きるとすれば...長すぎる!」などというセリフもありました。現代日本に置きかえれば70歳過ぎといったところか。何かを新しく始めるにはもう遅すぎるのではないか、もうやり直しがきかないのではないかと感じるかもしれない年齢。ワーニャの悔恨もその年齢と大いにかかわりがある。
この日のワーニャ役は、そういう目で見るとずいぶん若々しかったのが、ちょっと違和感をもったところでした。セレブリャーコフ教授も、リューマチだの痛風だのぶつぶつ言っている割には若い印象。
舞台装置はこんなふうでした
写真ではわかりにくいですが中央にはちいさな砂場があり、スコップやおもちゃがおいてある。舞台後方には時計、その右にはブランコ。
これらの装置にどんな意味があるのだろう。ときどきだれかが砂を手に取って、さらさらとこぼしたりしていました。ラストシーンではソーニャが歌を歌いながらブランコに乗っていました。
特に深い意味はないのかもしれない。もしかしたら、古き良き子供時代の記憶、決してやり直すことのできない過去の記憶を象徴しているのかもしれない。
舞台が終わって外に出ると、いつの間にか日が長くなった早春の夕暮れでした。