Dolcissima Mia Vita

A Thing of Beauty is a Joy Forever

ギュスターヴ・モローの展覧会

パリで一番好きな場所はときかれたらギュスターヴ・モロー美術館と即答するほどに偏愛する画家 ギュスターヴ・モローの展覧会が大阪で開幕したので行ってきました
母ポーリーヌや恋人アレクサンドリーヌをおだやかなやさしい筆致で描いた肖像画は初めて見ました
その穏やかさと ファム・ファタルを描いた絵の不穏さのギャップが面白い
 
ファム・ファタルの中では特にサロメにスポットが当てられ 試行錯誤のあとのうかがえるデッサンの数々などを見ると
サロメはこの画家の生涯にわたるテーマだったのだなとわかります
有名な「出現」L’apparition の絵 やはり実物のインパクトはすごかった
背景の柱などの細かい飾り模様は晩年になって書き加えたとのこと
逆にいえばそれ以前の背景はもっとシンプルであまり描きこまれていず 中央のサロメヨハネの首だけが入念に描かれていたということ
モローの絵ではよくあることだけれど 全部を描ききらない 細部はわざと未完成のままにする そのためにかえって主人公がきわだつ
「出現」のサロメは十代という設定だからだろうか 少年のように中性的なからだつき
モローの描くほかの女性たちも同じように性の匂いの稀薄なものが多く
バーン=ジョーンズの描く女性にも少し感じが似ている
女性性を失って asexual になることでより天上的な存在に近づくかのように
そしていくつかある素描のなかにはほとんど東洋的といってもいいようなポーズと衣裳のものもあり
これなどはまるで観音様か伎芸天みたい
19世紀後半のフランスにおけるジャポニスムの流行にモローもまた敏感だったのでしょうか
 

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モロー「サロメ
サロメのほかにもメッサリーナ サッフォー トロイのヘレン エウロパ デリラ メデイアなど充実の展示で時を忘れました
印象に残ったのは「エウロパの掠奪」壁いっぱいの大作でした
 

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モロー「エウロパの掠奪」

 

掠奪されて動顚しているはずなのになんと余裕の表情

むしろ牛に変身したゼウスを見下しているような傲然たる視線

ほかにもオンファレとヘラクレス セイレーンとオルフェウスなど

女性が上位に立って男性を慰撫する絵があって

モローの女性観が垣間見える気がします

 

美術館を出て16階の高みから見下ろす大阪の街は醜悪なコンクリートの林立
反時代的なモローの世界とは正反対の現実にしばし目のくらむ思いでした