Dolcissima Mia Vita

A Thing of Beauty is a Joy Forever

「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」を見た

男性の出演者の中でただひとり男らしくない(褒めています)ウ・ヨンウの父親が好きだった。

自閉症の子どもをシングルファーザーとして育てる。なんてすばらしい父親。どんなに大変だっただろう。4歳まで一言も発しなかった子が初めて話し始めたときの喜びはどんなだっただろう。たとえそれが「傷害罪」という風変わりな単語であっても。

私自身もシングルではないけど主夫として子どもを育ててきたので、自分のこととして想像できるし共感できる。

一流大学の法学部卒なのにキンパ屋を開くというギャップが好き。

それでも勉強をあきらめたわけではなくて、本棚には法律書がまだ並んでいて、それは学業への未練というよりは、法を愛する一人の市民として、仕事の合間でもいいから少しずつ読みたかったのだろう。そして娘が、その法律書をいつの間にか暗記していたと知れば、積読も無駄ではなかったのだ。子どもは親の背中を見て育つというが、親の本棚の背表紙を見て育つ子もいるのかもしれない。

 

若い人たち恋愛模様は、はじめから解のわかっている方程式みたいなもので(ケンカしてもまた仲直りするんでしょ?)、冷めた目で見ていたけれど、彼らの親の世代の男女の愛憎から目が離せなかった。

女ざかりという言い方は差別的なのかしら、中年という言葉も失礼な気がして、とにかくその年齢の二人の、弁護士事務所の代表どうしが静かに散らす火花が見ものだった。メイキングの段階では二人の直接対決もあったようだが、放映分にはなくて、それがないのがかえってドキドキする。

部下を思いやる人情味のある反面、ライバルのテサンのことになると目の色が変わるハンバダの代表。政界入りへの野心を隠そうともせず、弁護士業はビジネスと割り切って、クールに弁護を展開するテサンの代表。どちらもかっこいい。

二人とも、他人を踏み台にしてのし上がろうとする冷酷な一面があって、すこし寒気がする。業界のトップに君臨するにはそういう冷酷さが必要なのかしら。それでも最終話で、ウ・ヨンウの必死の訴え(彼女が涙をためる場面はいくつもあったけれど、涙を流したのはたぶんあのときだけ)で心を入れ替えるテ・スミを見ると、この人にも人間の心があるのだなと思う。

韓国は男女差別がひどいと聞かされているけれど、これは男が子育てをして女性が社会に出るストーリーだった。女性が裁判長や検事を務める場面もいくつか。男女平等はこんなふうであってほしいという願望もはいっているのかな。

それでも、夫に殴られる妻や、リストラで夫より先に辞めさせられる妻や、強権的な父親の言いなりに結婚させられる娘など、女性が抑圧される場面も描くのを忘れていない。

ウ・ヨンウとテ・スミが、まだお互いの素性を知らないころ、風の吹き渡る榎の木の下で言葉を交わす場面は美しく、テ・スミの素性を知ったあとのウ・ヨンウの発するたった一言で、それまで自信にあふれていたテ・スミが見る見るうちに青ざめて取り乱す場面も、同じくらい忘れがたい。

ウ・ヨンウ役のパク・ウンビンの演技には知性を感じた。ちょっとした手足や視線の動きすべてがすみずみまで考え抜かれていて、それでも嫌味がない。猫の片思いについての会話のあと、車から出て横断歩道を駆けてゆくときに、一瞬振り向くヨンウの笑顔が印象的。

春の日差しの優しいチェ・スヨンもいいけれど、怒りに燃えて白目の多い目でにらみ据えて機関銃のように啖呵を切るチェ・スヨンも素敵だった。