五十嵐きよみさん主宰の「題詠百首」(facebookで開催)おかげさまで今年も完走しました。
いつものように、特にテーマを設けずに詠みはじめましたが、詠んでいる途中で、そうだ、五首単位の連作群ならいけるかもしれない、とひらめいて、後半はそのようになりました。
以下のまとめでは、連作のところに詞書をつけています。
お世話くださった五十嵐様、またお読みくださった皆様に厚くお礼申し上げます。
2025-001:字 だれひとり解かれぬ字もてかはす文ひとに知らゆな燃ゆる思ひを
2025-002:温 晩鐘のなりをはるまで腕のなかこの温もりを身にきざむため
2025-003:賭 所有することのかなしみ 賭け金も尽きてたたずむ夢の切岸
2025-004:詰 履きなれぬ靴履きしゆゑつきまとふ日嗣の御子に追ひ詰められて
2025-005:殻 思ひわび身はぬけ殻となりにけりひとすぢつづく初蟬のこゑ
2025-006:席 ながらへば憂きことのみぞ多かりしこの世に席のありといはなくに
2025-007:かなり 籠あけてかなりあ一羽ときはなつ 空たかく飛べ歌な忘れそ
2025-008:酸 君かへす朝の鋪石すこしづつすりへらしゆく酸性の雨
2025-009:訴 訴ふる子をなぐさめて眠らしむ大丈夫もうこはくないから
2025-010:誰 ただありあけの月ののこれる独り寝を誰がためとてやまんじりとせぬ
2025-011:弥生 夢前川ひときは高く花香る弥生の宵の風やはらかに
2025-012:沈 夜もすがらなりわたる鐘劫罰に沈める寺の海の底より ドビュッシー「沈める寺」
2025-013:渉 明けぬ夜はなしといへども濁流に足とられつつ果てなき渡渉
2025-014:端 ひと違ひひと夜かぎりのちぎりとてえやは忘るる軒端の荻を
2025-015:爪 ぬばたまの闇に爪弾くアルペッジョものや思ふとひとのとふまで
2025-016:アクセス 黄泉の国へのアクセスいかに 愁嘆のオルフェは琴を横抱きにして
2025-017:痛 艦隊は藻屑と消えて海ふかくフェリペ二世のつのる痛風
2025-018:弾 降るやうに縁談あれど深窓に心弾まぬ白百合の花
2025-019:長 鐘つきて余韻の長くきゆるまでたたずみをれば木に鳥の啼く
2025-020:陳 歌姫は香港生まれ はれやかに「ひなげしの花」うたふ陳美齢
2025-021:煮 煮こごりのゆるゆるとけてゆくやうにいまやとくらむ凍れるこころ
2025-022:トラブル 声ひくくでんでらりゅうば口ずさむトラブルつづきの一日のをはり
2025-023:捻 宙空にからだ捻りしのちはただ落ちてゆくのみ夏の校庭
2025-024:迄 そばにゐてくださいませな蠟燭のなみだながれて尽きはてる迄
2025-025:決して 「もはや決して」呪詛を吐きつつぬばたまの黒き鴉の羽ばたき去りぬ ポー『大鴉』
2025-026:漠 漠としてとらへどころのなき夢のかけらをひとつ召しあがれ獏
2025-027:軽 後夜祭拍手口笛さんざめき軽音楽部のドラムのリズム
2025-028:不 花も人も深くねむれる五月闇不意にひとこゑほととぎす啼く
2025-029:チケット 銀河鉄道チケット売り場たづぬれば白手袋の車掌が招く
2025-030:肉 ずつしりと果肉を抱きて持ちおもるあをき器や冬瓜のあを
2025-031:泊 塵より出でて塵へとかへるこのからだ一泊二日の湯にあたたむる
2025-032:鋏 さくさくと鋏の音の聞こえきて下を通れば青き香の立つ
2025-033:交 あかねさす紫にほふぶどう酒を酌み交してぞ亡きひとしのぶ
2025-034:芳 その細きうなじにも般若心経書かれたりけむ耳なし芳一
2025-035:初 ああ皐月初聖体の子どもらのころものしろく薔薇咲きいづる
2025-036:令 切れ切れに号令の声いさましく梅雨の晴れ間の予行演習
2025-037:吹 吹き消せばくらやみのなか手さぐりにさがしもとむるやはらかきもの
2025-038:胡椒 塩胡椒ナツメグふればふうはりと異郷のかをりキッシュロレーヌ
2025-039:禁 伏せられし文字の背後をたづぬれば血のにほひする禁書目録
2025-040:伴 大伴の御津の浜辺を埋めたててがれきのうへの夢の賭けごと
2025-041:服 不服従不服従とぞきこゆなる雨はれて今朝きじばとのこゑ
2025-042:とうてい とうていむりと知りながらなほやめられぬ糠に釘打つ埋め立てのわざ
2025-043:皮 羊皮紙のかけらをつなぎならべかへまだ見ぬ人の恋文を読む
2025-044:拓 生きもののけはひ絶えたる干拓地 千鳥の群れの啼きつつわたる
2025-045:アプリ アプリオリに正しいものなどありはしない 一緒に飲もうホットウイスキー
2025-046:繁 ありし日の街の繁栄いまいづこ 骸をねらふ豺狼の群れ 徴兵拒否 五首
2025-047:問 検問をかはして逃げる山なかの道なき道のどくだみの花
2025-048:兵 徴兵をのがれ幾とせ草枕旅は名を変へ人相変へて
2025-049:払 払暁は眠りの時ぞ夜は行き昼は人目をしのびて隠る
2025-050:撒 彌撒果てて人かげ絶えし聖堂の壁のくぼみに一夜の宿を
2025-051:江戸 中山道経由江戸ゆきゆらゆらと幽閉の姫輿にゆらるる 和宮降嫁 五首
2025-052:離 みやこ離れ親をはなれて幾千里耳になじまぬあづまのことば
2025-053:斉 一斉に頭を垂るるはしための奥にするどき衛士の眼光
2025-054:友 誰が友や誰が敵やもしらぬまま慣れぬ枕をしとどに濡らす
2025-055:仄 ふすま越し仄聞こえくるささやきは悪意にみちて貶むる声
2025-056:ホール 朝まだきしじまを破るラホールの回教寺院にアザーンのこゑ イスラーム 五首
2025-057:姉 「姉さんは売られていつた」浅黒き少年の眉かすかにくもる
2025-058:殊 身捨つるほどの国にやあらん国旗もて棺覆はれ殊勲の戦士
2025-059:随 不随ゆゑの力なるらん空たかくボール蹴上ぐる義足の少年
2025-060:暑 機内より出でたるせつな熱帯の暑気の頬打つカラチ空港
2025-061:侍 近侍らは波に呑まれてただひとり青海原の救命いかだ 『オデュッセイア』五首
2025-062:岸 ふるさとを遠く離れてなつかしきイタケの岸を夜な夜な夢む
2025-063:貞 ペネロペはさびしからずや音沙汰なき夫待ちつつ機織る貞女
2025-064:災難 わたつみの怒りは解けず災難に続く災難航路を襲ふ
2025-065:志 志なかばに倒れトロイアの露と消えにし友らしのばゆ
2025-066:刈 刈り薦の乱れてけさは物思ふ一目見しひと忘らえなくに ベルリオーズ『幻想交響曲』五首
2025-067:牧 牧人の笛の物憂き夏の宵いとしきひとのおもかげぞたつ
2025-068:崩 舞踏会つれなく見えしひとゆゑに身を持ち崩すわれならなくに
2025-069:釜 断頭台に鈍き音して果てにけり地獄の釜の煮えたぎりつつ
2025-070:昨 目覚むれば昨夜は夢か目くるめく魔女の宴も魑魅魍魎も
2025-071:ポスト ポストホルン吹きならしつつきしる馬車わが思ふひとのたよりはありや 遠く離れた人への恋 五首
2025-072:脇 黒きかばん小脇にかかへ封筒を手渡しくるる郵便夫はも
2025-073:患 恋に患ひ籠もれるわれになによりの妙薬なりき玉梓の文
2025-074:種 恋しくは形見にせよとたまはりしあさがほの種けさ花ひらく
2025-075:進化 人の進化の待ち遠しけれ恋人のもとに飛びゆく翼もがもな
2025-076:放 放たれし矢に心臓を射ぬかれて恋の病のつのるこのごろ つのる恋 五首
2025-077:敢 せき敢へずなみだながれてたぎつ瀬にもてあそばるるわが心かな
2025-078:胴 しなやかなその胴体の曲線のまなかひにたつ独り寝の閨
2025-079:偶 置く露の偶さかにみるたびごとにまさる思ひをいかにせよとや
2025-080:洞 たへかねて鳴りいだすらむわが心空洞(うつろ)となれば琴さながらに
2025-081:廃 雨女(自称)のひとと経めぐれば廃園にふる雨音しづか
2025-082:ときどき ときどきがたまににやがてまれになる冥王星のかなたのたより
2025-083:霧 霧深き比叡の寺のともしびのたえざるごとくわが心燃ゆ
2025-084:典 典雅なる寝台もがな疲れたる心と心とけあふための 萩原朔太郎「寝台を求む」
2025-085:砂 あまのがは途中下車しておりたてば金銀砂子きらきらひかる
2025-086:戻 「あたたかくしておやすみください」告ぐる声猫の戻らぬ夜のしじまに
2025-087:意味 ことばなど知らずもがもな意味の海浮きつ沈みつ島影もなし
2025-088:明 霜さゆる夜はふけつつ不明者の名を読みあぐる声のとぎれず
2025-089:被 鐘の音にまじりきこゆるアヴェ・マリア夏のをはりの被昇天ミサ
2025-090:級 獺祭を酌みかはしたり級友の性別移行祝ふこの夜
2025-091:貌 おぼろなる顔の貌のうかびくる目をつらぬきしのちの薄明 谷崎潤一郎『春琴抄』
2025-092:至 奥津城に至るみどりの影の濃く目しひの王の手をひく娘 オイディプスとアンチゴネー 四首
2025-093:アンチ アンチゴネーありやなしや敵味方おりかさなりてたふるる廃墟
2025-094:毛 鳥の毛の軽きいのちやテーバイに刺しちがへたる兄と弟
2025-095:堂 満堂のしづまりかへる大団円妃の棺はこばるるとき
2025-096:響 地響きをたててくづるるたてものの瓦礫の下に助け呼ぶ声 戦の世 五首
2025-097:満 息つめて兵士の去るを待ちゐたり死臭満ちたる五濁の悪世
2025-098:乏 薪も水も乏しくなれば心ばへやさしき者から順に死にゆく
2025-099:訪 年々に訪れるひとまれになる無名者墓地の鬼哭啾啾
2025-100:改 旧かなに改めしのちうづめたり無念の死者のねむれる土に