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奥田英朗『ナオミとカナコ』と韓国ドラマ『あなたが殺した』どちらが好き?

配信されたばかりの韓国ドラマ『あなたが殺した』全8話を見た。

ちょっと期待しすぎたかもしれない。原作を知らずに見たらもっと楽しめたかしら。原作との違いばかり気になってしまった。
以前読んだ奥田英朗『ナオミとカナコ』の、夫の暴力に耐えかねる妻とその親友の冒険は、韓国ドラマにぴったりの題材で、きっといいドラマになるのだろうと楽しみにしていたのだけれど。

何よりも驚いたのは、密入国中国人の、再入国後の豹変だった。原作では一貫して気の弱い男だったのに、こちらでは一転して二人の女性を脅迫する。まるで暴力夫が生き返ってきたかのような再登場の場面が不気味すぎて鳥肌が立った。暴力夫と一人二役だと言われなければわからないほど見事に演じ分けていたが、片やエリート銀行員、片や不法就労外国人と極端に対照的な立場なのに、申し合わせたようにどちらも二人の女性を虐げる役割を演じるのが面白い。

二人の女性による「排除」の行為に疑惑を持って執拗に追い詰める暴力夫の妹の役は、原作では普通の勤め人だったが、ドラマでは刑事である。原作の普通のOLが知恵を絞って、興信所を使って次第に追い詰める執念は、敵役ながらあっぱれと思ったし、兄を喪ったことの悲しみと復讐心も理解できた。素人同士が、頭を使いながら、ときに失敗しながら、追いつ追われつするところに醍醐味があった。しかし、刑事ならば捜査のプロであり、権力も持っていて、二人の女性に対して優位に立つことができる。それではかえって面白くないのではないか。ただし彼女にも弱みというか思惑があり、自分の昇進のためには兄の暴力を表沙汰にしたくなくて、その隠蔽のために彼女もまた別の泥沼にはまってゆく様子は、なかなか見ものだった。この人には全く共感できず、ただの欲にまみれたクズとしか思えない。

高価な時計を平然と万引きするところからヒロインが知り合うことになる、一見あやしいのだが実は心強い味方だとわかる中国人の女社長、原作では事件そのものに直接介入することはなく、ちょっとした言葉で励ましや気づきを与えてくれ、最後の最後になって、思いがけない形で助けの手を差し伸べてくれるのだが、ドラマの方の社長(こちらは男性)の、事件への介入の程度は半端ではない。手下を使って、裏から手を回して、全力でバックアップする。それはそれで面白いし、社長のキャラも魅力的である。でもやはり、原作の女社長の控えめな応援の方が、なんの後ろ盾もなく危なっかしい若い女性二人の冒険の危うさと切実さを、より鮮明に際立たせているように思った。

原作では、はじめのうちは「排除」を提案するナオミ(ドラマではウンス)の意気込みに対して、カナコ(ドラマではヒス)の方は消極的で、夫からの暴力を半ば諦めていて、ナオミに背中を押されなければ動けなかったのに、しだいに自分の頭で考えて理性的に動くようになり、特に大詰めで、誰もが(ナオミさえも)正気を失って、怒ったり悲しんだり慌てたりしているのに、ただひとりますます冷静沈着に、自分を信じて行動するようになるカナコの、魂の成熟がまぶしかった。カナコにその力を与えたのは妊娠であったかもしれない。暴力夫の子を宿していると「排除」後に知ったとき、虫酸が走るほど嫌いな夫の種であるにもかかわらず、まるでお腹の子に励まされるように、なぜか生きる力が湧いてきたのだった。

ドラマではどうだったか。ヒスは妊娠せず、「排除」後も前と同じようにやや引き気味の立ち位置は変わらず、激しいアクションはもっぱらウンスの方ばかりで、主演ウンス・助演ヒスの関係は最後まで変わらなかった。ウンスが髪をおだんごにまとめてキリッと引き締まった中性的な雰囲気なのに対して、ヒスはふわっと髪を流してフェミニンなファッションで、どこかたよりない雰囲気なのも、この印象を強化する。

原作の終盤の一番の山場は、任意とは名ばかりの厳しい取り調べをカナコが受けるところであり、あわや逮捕かと思う絶体絶命の場面からどのようにして脱出したのかに驚くことになるのだが、ここまで読んだとき、カナコ、がんばったね、よくやったね!と拍手したくなった。あんなにおどおどと怯えていた人が、大丈夫、きっと生き延びてみせる、という強い覚悟で、苛酷な取り調べにも怯まない。ところが、ドラマでは取り調べを受けて胸ぐらを掴まれるのはナオミにあたるウンスの方だった(罵倒を浴びせられても微動だにせず、強い視線で見返す彼女の冷静な表情が印象的だったが)。そういう危ないところはすべてウンスが引き受けて、ヒスはあくまでも守られる存在、という設定はどうなのだろうか。ヒスにもそういう危険な冒険をさせてやりたかった。原作のように、二人とも対等の位置で、ナオミに助けられてカナコがどんどん生き生きと力をつけてくるストーリーの方が、個人的には好きだった。

監督は女性の方らしい。男性の暴力性に対する告発、暴力から目を逸らすのが暴力を振るうのと同じぐらい罪悪的であり、暴力を耐えたり赦したりする必要もなく、立ち向かうために勇気を持って連帯してゆこうというメッセージは、痛いほどひしひしと伝わってきた。こういうドラマは男性監督にはなかなか作れないだろう。

ところで、正当防衛とはいえ重大な犯罪には違いないはずなのに、あんなに簡単に釈放されるものなのだろうか。最後の締めが少し甘いように思う。

日本では広末涼子と内田有紀でドラマ化されたそうだが、機会があればぜひ見てみたいものである。

 


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